想像力を働かせ、子どもの命を守る

自分の子どもがよく喉に物を詰まらせる子どもでした。

上の娘も下の息子も割と子どもにはよくあることですが、たくさん口に入れ過ぎてむせることがありました。

苦しそうにうめいて下をうつむいて詰まらせた時は背中を叩いて出してやったことを記憶しています。

本当に詰まらせて叩いて出してやった時は、「入れ過ぎなんだよ。」と笑って過ごしたのを覚えています。

 

ある時、保育園で2歳児クラスを担当していた時です。

20人の子どもたちを私がリーダーで、女性保育士2名と計3名で担当していました。

3時のおやつのメニューは白玉団子でした。

保育園では定番のメニューで、子どもたちも大好きでした。

急に女性保育士があわてている様子が分かりました。

近くの男児が喉に白玉団子を詰まらせたようです。

その時は私ものんびり「出してやって」とその女性保育士に声掛けしました。

女性保育士は背中を叩いたりしていたようですが、出ません。

そのうち男児が苦しそうにして急を要する事態へと変化してきました。

「だめかもしれない」

女性保育士がつぶやきました。

折しも、数週間前に学童保育所で子どもがこんにゃくゼリーを食べて詰まらせて、窒息して亡くなった事件があったばかりでした。

これは任せてはおけない、そう思い、私はその子を抱え、うつむかせ、背中を2度ほど強く叩いたと思います。

すると口から「ぽーん」と白玉団子が出てきました。

その子は泣いていましたが、皆ほっとした様子だったと思います。

その子だけが、背中を強く叩いて「なんで叩くんだよ」といったような顔をしていたのを覚えていますが、相当苦しかったのだと思います。

たぶん尋常ではない強さで叩いたと思います。

優しく叩いても出ません。

これでもかというぐらい強く叩いて、泣いたっていい。

放っておいて出なければ、確実にその子は亡くなるのですから。

その子を救うのは園長先生でもなければ、救急隊員でもありません。

目の前の自分しかいないのです。

出来ない、無理、ではなく、絶対になんとかするんです。

掃除機なんか頼ったって仕方がない。

AEDなんて言う前に目の前の団子を出してやる。

それしかないのです。

 

毎年1回、AEDの訓練を受け、物を詰まらせた時の対応は頭の中では理解していても、実際になるとあわてるものです。

経験がないと出来ないのです。

幸いにもというと我が子に失礼ですが、自分の子どもで私には経験があった。

おそらく仕事だったら大騒ぎとなるような事故であったとしても、家庭内で自分の子どもだったから、バンバン叩いて、「あわてすぎなんだよ。」「大丈夫だった?」「気を付けなよ、わっはっは」で済んだのです。

我が子も相当苦しかったと思います。

でもその異変に気付いて、適切に処置したから生還できたのです。

 

私は事ある毎に若い人にこの事を話ししています。

経験がないことはなかなかうまく出来ないものです。

じゃあ経験がないと出来ないのか。

初めは誰もが初心者です。

私も自分の子どもが最初でした。

頻度が多く、言い方は変ですが、いい練習になりました。

人間は想像する力があります。

過去の事例から学ぶことが出来ます。

想像し、頭の中でシミュレートすることで経験に変えることが出きます。

実際に経験しなくても私たち人間は具体的に想像することであたかも実際に経験したかと同じような学習をすることが出来ます。

どうか若いお父さん、お母さんたち、現場の保育者さんたちに伝えたい。

具体的な事例やエピソードから想像を膨らませ、ご自身の経験に変えることで、子どもの命を守る技術にして下さい。

そして子どもを預かる専門職としての保育者のみなさんには、なんとしても目の前の子どもたちを守るんだという気概を持って欲しいと思います。

あなたがあきらめたらその子の命は救われないのです。

私自身も子どもを預かる現場の保育者として、決してあきらめない、強い意思を日々持ち続けなければならないと強く実感します。

 

一人の子どもが亡くなりました。

どんなにがんばっても救えない命というものもあるかもしれません。

非難では子どもは帰ってきません。

私は自分自身の経験を語り、想像力を働かせ、目の前の子どもをなんとしても守るんだという気概を広め、1人でも救える命があるのなら、守りたいと思います。

亡くなられたお子様のご冥福を心からお祈り申し上げます。

合同会社 滝山ネイチャークラブ

代表 堀岡 正昭

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