火の番の意味を知る


江戸時代の小噺に、火の番をしておけと言いつけられた奉公人が火事になっても「へい、ずっと火を見ていました。」みたいな笑えない小噺があります。

それと同じように、子どもを見る、ということも、「子どもがいないのに、どうしてそこにいるの?」と尋ねると、「ハイ、あの先生に『ここのすべり台の所を見ていてね。』と言われました。」と答える実習生が少なくない。

嘆いても仕方がないが、「火の何を見ておくのか」「どうなったら、どうしたらいいのか」「火の番をしておけという意味」を教えておかないといけないということなんだと思います。

「子どもを見ていてね」では、子どもが棒を持って振り回していても「子どもを見ていて」、子どもがいなくなっても、「ハイ、出ていくのを見ていました。」という笑えない小噺になってしまいます。

子どもを見るというのは、もう少し細分化して、確認、共有していく必要があるということです。

 

1.子どもを視界の中に入れる(ポジショニング)

子どもを観察する技術として、まずは子どもを視界の中に入れましょう。

カメラを対象に向けるということです。

そのためには、保育者の立つ位置、観察する場所というのがとても重要です。

どこに立ち、どこを向くか。

まずは、対象となる子どもたちが視界の中に入る位置に立ちましょう。

その時の要素は、

(1)危険な所

先ほどの例で言えば、園庭に砂場とすべり台があれば、すべり台の階段の所に先生たち、付くわけです。

(2)子どもが大勢いる所

やっぱり先生たち予想が付くわけですよね。噛みつきの1歳さんとか、子どもが密集している所、ここも先生たち見るわけですよね。

(3)遊びが盛り上がっている所

それから、やっぱり安全管理だけじゃなくてね、子どもの遊びが盛り上がっている所で、「うわー、すごいねー」と言って共感したり、肯定的な言葉をかけるわけですよね。

ここをを意識していきましょう。

その際にも、全体が視界の中に入るように立ち位置、向きを考えてください。

全員の子を視界に入れようとしたら必然的に子どもたちと距離が開きます。

それでは子どもの内面が読み取れないので、距離を近づけます。

 

2.全体を見る(ルックアップ・ルックアラウンド)

保育と言うのは目の前の子どもだけではありません。

木を見て森を見ず、なんてことにならないように、たまに顔を上げ、全体の様子を把握する、周りの様子にも気を配るようにしましょう。

こういう動作を身につけるようにしましょう。

分かっていても出来るとは限りません。

意識を持つことと、その動作を習慣にすることです。

顔を上げて、周りを見る。

目の前の子どもに対応して、たまに他の子のことも見る。

 

木も見て、森も見る

保育者は背中にも目を持て

 

3.子どもの状態・行為・行動を観察する。

その次に、子どもの何を見るのか、ということですが、いわゆる、外見的、表面的な変化というのがその1つです。

活発なのか、静かなのか、怒っているのか、泣いているのか。

実は防犯カメラでも捉えることが割と可能な状態の変化を観察するということです。

 

4.子どもの内面、心理状態、体調の変化を捉える、読み取る。

今度は、外見的な特徴だけではなく、内面的なもの、目には見えないものを捉えるということです。

集中しているのか、注意力散漫な状態なのか、疲れているのか、具合が悪いのか。

そのためには、近づかないと見えてこないんです。

現場の先生にしか出来ないことなんだと思うんですよね。

直接目で見て分かることもあれば、表面的な僅かな変化から、状態を読み取る、見立てが必要です。

これはまだAIには出来ないことです。

経験者でないと、読み取れない、または読み取ったとしても、精度が低かったりして、当たっていないことも多い。

この制度を高めるためには、自分なりに予測して、働きかけて、その予測が正しかったかどうかの検証が必要です。

 

5.アクションを起こす

実は、子どもを見ていてねというのは、単に観察しているという状態のことを指しているのではなく、必要に応じて、アクションを起こす、働きかけるということも当然含まれてきますよね。

先の火の番の話では、火が大きくなりすぎて、延焼の危険があったら、火を小さくしたり、消火するという行為・行動をも含まれています。

自分の手には負えないと判断した場合には、主人を呼んだり、誰かに通報して、危険を知らせるという行為が含まれているはずです。

「子どもを見ていてね」という言葉には、実はこうした3つの依頼が含まれていたのです。

子どもの外見を見る。子どもの内面を読み取る。それに対してアプローチしていく。

この共通前提が崩れてしまっている現代においては、ここまで伝えないと、「子どもを見る」ということを依頼する、一緒に子どもを見守るということが出来ないということになります。

子どもを観察する技術の前に、「子どもを見る」という大前提の共通理解に努めましょう。

  • 外見・表面的な変化を見る。
  • 内面・心理状態・体調の変化を読み取る。
  • それに対して、適切な行動を判断して、実行する。

 

子どもの動きに合わせて応答的に動く(フットワークを軽くして)

子どもは常に動きます。

今ここで遊んでいたかと思うと、あっちの方に行って、どんどん遊び場所も変わります。

その子どもの動きに合わせて、応答的に動きましょう。

その意味で保育者はフットワーク軽く、動くことを意識しましょう。

そう言うと、「私は体力がないので、そんなに動けません。」という人がいます。

早く走る必要はありません。

でも、子どもの動きを観察し、内面を理解しようと思うと、子どもの近くに行かないと見えてきません。

子どもを危険から守ろうと思うと、いち早く危険を察知し、危険を知らせたり、回避したりしないといけません。

そのためにはどかっと一所に腰を下ろして、子どもを見てて、安全を守れるほど、保育は生易しいものではありません。

45分間走り回る体力はなくても、さり気なく動いて、子どもの安全を守り、子どもの心の動きを読み取り、静かに言葉をかけられる保育者でありたいものです。

経験ある先生はよく動きます。

でも、決して目立たず、静かで、そっと動いています。

ある時、経験者の先生に、「今、どうしてそこに動いたんですか?」「なんとなく危ないかなと思ってね。」そう、経験を積み重ねると、危険予測が正確になるんです。

読み取りの時間が早くなるのです。

だから、あわてて走ったり、大声で叫んだりしなくても、「なんかおかしいな」という危険予知能力が働き、あらかじめ危険を回避することが出来るのです。

最初はそんなにうまくはいきません。

空回りに終わったり、危険を感じ取ることが出来ず、怪我をしてしまってから気づくこともあるでしょう。

でもそんな経験から学び、学習していくことで、その精度は高めていくことが出来ます。

 

保育者1人1人がこの観察する技術を持つことで、安全の質が格段に上がります。

これを「分かっている」状態から「出来る・やっている」状態にまで高める。

それには、日々の保育の中で、意識すること、習慣になるまで何度も何度も繰り返し行い、目をつぶっていても出来るくらいにまでにすることです。

習慣化になれば苦労しないで出来るようになる。

苦労しないでも出来るようになれば、さらに難度の高い技術に挑戦できるようになる。

この、子どもを観察する技術を身に着けて、安全な保育を目指していきましょう。


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